ネットワーク管理者の憂鬱な日常

とある組織でネットワーク管理に携わる管理者の憂鬱な日常を書いてみたりするブログ

「限界」を知ることの重要性

毎年、とある授業の一環として、無線LANの限界を知るための実験を行っている。
と言っても、教室内に仮設した実験用APに対し、受講生のノートPCからpingを投げさせ、
パケットロス率と応答時間を計測する程度なのだが。

計測点はこちらから指定した数ヶ所で、教室内はもとより建物外からも計測する。
たかだか10mWの空中線電力でも、電波は意外とよく飛ぶということを知ってもらうと
同時に、パケットロス率や応答速度が非常にばらつくことを知ってもらうことが目的。
# 「よく飛ぶ」ことを印象づけるために、あえて802.11gで実験していたり(笑)。

結果を見てみると、これが面白いようにばらつく。
同一計測点の結果においても、ある実験結果はパケットロス0%に対し、別の結果では
50%以上のパケットロスを計測する。
また応答時間も、同一計測者、同一計測点の結果で、数msから400ms以上の応答時間の
ばらつきが出る。

ちなみに、先ほど(有線で)計測したら、国内最北端と思われる某大学サイトとの
応答時間は約120msであり、南米のチリ大学サイトとの応答時間で400ms程度であった。
つまり、無線LANによる通信は、応答時間の観点では(場合により)チリ大学との
通信に相当する応答時間しか得られないことになる。

その反面、17〜18cmのダイポールアンテナから10mWで放射される電波は、RC造構築物から
軽く100m以上漏洩していたりする。もちろん空中線電力を調整すれば別だけど。
# 高層階に設置されるAPなら200〜300mは飛ぶと思われ。

ちなみにAP1台で収容可能なクライアント数も限界があり、その限界を超える数の
クライアントを接続させれば、すぐ隣の端末はコネクションが確立しているのに、
自分の端末はコネクションが全く確立しないという現象を体験できる。

じゃあ、単純にAP数を増やせばいいじゃないかという議論になるのだが、同一セル内で
実質使用可能なチャンネル数は限られており、限界以上に増やせば干渉を起こすだけ
なので、結局、セル内に設置可能なAP数も限られる。

これらの話は知っている人は既に常識なのだが、無線LANを有線LAN並に安定して
使用するには、限られた条件下においてのみ可能で、その条件を外れると、
とたんに不安定な利用環境しか得られなくなる。

つまり、一見便利で万能と思う技術でも、実は限界が存在し、その限界点を正確に
把握することが重要。
で、その限界点を体験させるために、冒頭の実験を行わせていたりする。

所詮、現行の無線LAN AP(IEEE 802.11a/b/g)は、特定小電力無線局と同等の
「小電力データ通信システムの無線局」に分類される代物。
我々の観点からすれば、あくまでもBest Effort型サービスなら提供できますよって
程度のもの。
そりゃ、WiMAXのように局免取って10Wも20Wも空中線電力出せるならセル内で一様な
サービス提供もできるだろうけど(苦笑)。

設備導入などの際に、必ず「(有線不要で)無線LANだけでいいじゃない論」が
出てくるのだが、それで毎回集合授業を実施されたいと言われる方には、じゃあ
やってみて下さいと言ってみたりする(笑)。
# 使用可能なチャンネル増やせと言う方には、総務省にかけあって下さいと言って
# みたりする(苦笑)。

と、ここまでは長い前置き(笑)。

この実験中に通りかかったとある方が実験者に「何やってるの?」と聞いていた。
で、聞かれた実験者が「(前述の)実験やってるんですけど、つながらない」と回答。
通りかかった方曰く「それあかんがな」と(苦笑)。

いやいや、実はですね、わざと応答が不安定になる計測点を用意しているワケでして。
で、その辺が限界点なんだよ、いうことを実験者に体験してもらうためでして。
別の見方をすると、そこまでは飛ぶんだよということを体験してもらうためでして。

限界や失敗から得るものもあるでしょ、と。
できるなら、その意図をくみ取って頂きたかったのでした(苦笑)。

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